neutralのFAQ①【neutralのコンセプト編】いま増村江利子が『neutral』をはじめる理由
ニュースレター『neutral』に関して皆さんからいただきそうな質問を、編集部内でインタビューしあってみました。1回目はneutralのコンセプトについて。編集長・増村江利子へのインタビューです。 (聞き手:neutral エディター 松原佳代 )
Q.さまざまな媒体で編集長を務めてきた江利子さんが『neutral』というニュースレターを始めようと思った理由を教えてください。
A.社会課題やSDGs、サステナブルについて発信するWebメディアはあるものの、自分自身が環境問題を自分ごととして暮らしから見直す視点で発信したい、と思ったことが発端にあります。
そして、ごみを17種類に分別したり、生活用品をリサイクルやリユースできるものに代替するといった暮らしを日々実践するなかで、自分で調べ、考え、やってみては検証するというサイクルをもっとたくさんの人に届けることは、暮らしのつくり手を増やすことにつながるのではないか、そして、暮らしのつくり手を増やすことこそが、循環型社会をつくることに他ならないと考えました。
循環型社会とは、限りある資源を効率的に利用して、リサイクルなどで循環させながら持続して使い続けていく社会のことですが、その“循環”は、国や行政、企業や仕組みなど誰かがつくってくれる仕組みではなく、ひとりひとりが選び取り、実践していく暮らしのなかにこそあるのではないかと思うのです。
Q.『neutral』という名前に込めた想いは?
A.ニュートラルには、中立・中間といった意味があります。これまで当たり前だと思っていた価値観を客観的に捉え、新しい視点をもって、自分なりのちょうどいいポイントを探る行為そのものがサステナブルのリテラシーをもつために必要なのではないかという思いから、『neutral』と名付けました。
私自身も、現在は家電をほとんど使わない暮らしをしていますが、かつては冷蔵庫も掃除機も炊飯器も使っていました。あることが当たり前で、そこになんの疑問を持つこともありませんでしたが、東日本大震災が起きたあと、自分が消費をする電気に“責任”をもちたいと思うようになりました。冷蔵庫の中身をひとつひとつ取り出して、つくり置きをするという手段をもたないという選択をすれば、つまり毎食いちからつくるという手間暇をかければいいという発想にたどりつきました。
やってみると、お味噌もバターも、常温保存で数日でわるくなったりはしませんでした。当たり前に考えていたことを、一度ニュートラルな視点で眺めてみる。そして、何かひとつでもアクションをしてみる。そうした実践に、サステナブルのリテラシーがあると思っています。
Q.『neutral』の編集方針を教えてください。
A.ひとつの物事を一方から捉えるだけでなく、逆の方向からも捉えてみることを編集方針としています。たとえば代替肉は、使用される水や森林伐採面積、温室効果ガスの削減といった環境負荷の低減につながりますが、肉本来の栄養素が得られなかったり、既存の畜産業界が減収となる可能性があるなど、デメリットがあるのも事実です。エコバッグもわかりやすい例ですね。プラスチック製のレジ袋の代わりにとても重宝しますが、多くのブランドや店舗からもらったエコバッグが溜まってしまい、不要なものになってしまうというのは誰にでも経験があるのではないかと思います。他にも細かいたとえになりますが、納豆を購入して食べたとして、納豆の上にかぶせてあるプラスチック製のシートや小さなお醤油のパッケージを洗って乾かしてリサイクルをするか、そうしたものまで洗うのは水がもったいないと考えるか、意見の別れるところだと思います。
このように、課題解決と思える方法にはメリットとデメリットがあったり、必ずしもひとつが正解というわけではなく、視点や考え方によって正解は異なる可能性もあるかもしれないと思うことが背景にあります。『neutral』は、正解を求めるのではなく、自分なりの答えを一つでも生きていくことを目指します。
Q.『neutral』で扱うもの、扱わないもの。ルールはありますか?
A.タブー視されていることがあるとしたら、タブーにしない、というのは言えるかもしれません。元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏が『不都合な真実』という書籍を世に送り出したのはもう何年も前の話になりますが、さまざまな意味で衝撃を受けました。人類の文明はエネルギーを消費し発展し続けてきたけれども、それは地球環境を汚染する歴史でもあったという書籍の内容はもちろんのこと、こうした書籍が政治家から「不都合な」という形容詞がついて出版されたことで、環境とは、政治や政策のはなしであることがほとんどで、そのことこそが大きな課題だと感じたのです。
たとえば、誰かと原発問題について議論をしたことはありますか?ひとりひとりが環境を自分ごとにするために、誰かと対話をしたり、考えてみることはとても大切なことだと思います。そうしたヒントやきっかけを提供できればと思っています。
Q.Webや雑誌、さまざまな形態が存在する中でニュースレターという形を選んだ理由は?
A.ひとつは単純に、Webメディアが乱立するこの時代に、またWebメディアを立ち上げるのか?という問いがあります。また、Webメディアや雑誌などは、コミュニケーションが1対多になりますが、ニュースレターは1対1に近いのではないかと考えたことも理由のひとつです。いやいや1対多でしょ、というご指摘をいただくかもしれませんが、少なくともご登録をいただいた方に、おひとりずつ情報を届けるという意識をもって発信したいと考えています。
じつは、私たちが運営している、竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll」の不定期メールマガジンの開封率は毎回6割を超えていて、7割以上になることもしばしばあります。このメールマガジンに対して、応援メッセージだけでなくご意見をいただくなど多くのレスポンスがあり、運営をしている私たちの学びにもつながり、そこに1対1のコミュニケーションができることの可能性を感じました。「サステナブルのリテラシーをみんなで学ぶ」というキャッチコピーのとおり、読者のみなさんと一緒に学びを得られる、相互に刺激を受けることのできる存在でありたいと考えています。
Q.月に1回、読者も招いて「編集会議」を開きますが、どんな編集部をつくっていきたいですか?
A.編集会議をオープンにすることで、みなさんとつくるニュースレターにしていきたいと思っています。『neutral』編集部の5箇条は以下のとおりです。
『neutral』編集部の5箇条
環境を自分ごとにしよう。
自分に嘘をつくのは、もうやめよう。
問いを持ち続けよう。
考えない快適さから、抜け出そう。
実践者でい続けよう。
傍観せず、自分をアップデートしよう。
完璧は目指さない。
できることから、少しずつ。
感謝を忘れない。
ありがとうを隣の人にも、社会にも。
そもそも編集者とは、(編集者さんによって答えは異なるとは思いますが)原稿の校正ができる人のことではなく、広い視野をもち、こういう未来へ向かいたいという社会への眼差しをもって、素材を集め、自分も社会もひっくるめて編み直していく作業だと思っています。どんな眼差しをもってのぞむのか、自分なりの思いや言葉、アクションが編集会議で見つけていただけたらいいなと思いますし、自分自身も見つけられたらと思っています。(終わり)